本を読むまたは 本を見ること
     

なかえよしを
 
 ぼくは本を読むよりも見るほうが多かったと思います。
生きていくことは出会いの連続ということのようです。人に出会い、物に出会い、場所に出会い、時代に出会い、そして本に出会うという訳です。それらに出会って感ずる想いは人それぞれ違うのは当然ですが、そういう人の想いは目でみることはできません。
 そういった見えない心の中の想像力を育んでくれるのが本だったと思います。
 本を読んでも読まなくても、人は何かを食べていれば生きていけます。しかし、それは外見だけで心はどうでしょう。心は出会いによって微妙に影響を受けその人の人格まで形成してしまうのではないでしょうか?
 ぼくは 今、絵本を作っているのですが、よく「こどものころはどんな絵本を読まれましたか?」と聞かれます。この質問は、きっと良い絵本を読んで絵本作家になったのだろうという期待の質問なのだろうことがわかります。
 しかし、実際こどものころは戦時中と終戦直後で絵本どころか本など身の回りになく、応えるのに往生しましたが、最近はこう応えるようにしています。「ぼくの子供時代は家で兎や鶏を飼っていましたし、おかずの卵は鶏小屋にいけばいつでもありましたし、あのすっぱいトマトも、スイカも手の届くところになっていました。近くの川でめだかやえびがに、それにカエルと亀さんまでとってきて飼っていましたし。裏には松林があり松ヤニを指でねちょねちょと人差し指にからませたり、海が近かったので砂の原っぱがあり、そこに引き込み線があってトロッコにのって遊んだり、小さな川にはいってはヒルに吸い付かれたり」等々
 今ではこの状況は絵本の世界なのです。当時絵本など見なくてもぼくは絵本のなかに住んでいたのだと言ってしまいます。今では経験出来ないこれらの事柄は心の片隅で自分の考え方や生き方、絵本づくりに少なからず影響を及ぼしていることが分かるからです。
 その後、小学生の時にいとこから一冊の漫画の本をもらいました。それがきれいな箱にはいった漫画でした。手塚治虫さんの「メトロポリス」でした。なんて美しい本なのだろうと思いました。中を読む前に外側のケースに感心しました。そのケースから本を取り出すときの心のときめき、勿論、内容と絵、そして最後のシーンのすばらしさ、読み終わりケースに本をそっと差し込んでいく満足感。
 それからは手塚さんの作品を見つけては読んでいきました。今だに当時の作品を保存してますが、その後、絵が好きだったぼくは画家か漫画家になるべく、とにかく美術学校にいくのですが、結局、在学中にあまり絵のうまくないぼくはグラフイック・デザインと出会い、広告の仕事に就くのでした。
 デザインの仕事は楽しかったのですが、それでもこれが本当に自分に合っているのだろうか、もっと他にあるはずだと解らないながらも見えない自分の何かを求めながら仕事をこなす毎日でした。
 そんな時に出会ったのがハンス・ベルメールの「プペ」(PUPPE)でした。その本を見た瞬間の衝撃は今でも忘れません。今まで自分はなにをすべきか求め悩んでいたことが簡単に解決してしまったのです。シュールレアリスム。こんな世界があったなんて、「メトロポリス」もシュールレアリスムだったのだと思いました。
 出会いは何かを求めていないと出会わないのものです。「求めよ さらば与えられん」なのです。求めていないとせっかく自分にとって大切なものに出会っても気づかないで見過ごしてしまうところでした。
 本は読むものでしょうが、ぼくの場合は「プペ」という本の出会いから本をオブジェとしてみるようになっていました。オブジェとしての本は画集がそれを満たしてくれました。画集をみるのがぼくの日課になっていました。画集に惹かれるのは、印刷は普通の本より気を遣い紙も本の大きさ、厚さ製本までも計算されていることです。美しい本は部屋に置いてあるだけで豊かになるものです。
 結局、美しさに惹かれ本を集めていきダビンチ、ダリ、マグリット、ベルメール、ボッス、などのあらゆる画家を知っていくことになり、最終的にやはりシュールレアリスムそして、マルセル・デユシャンに到達してしまうのでした。このような超現実的な世界は、まさに想像力の世界なので素直に影響を受けて、それをこどもの絵本に結びつけて制作するのは必然のように思われます。
作品というのは組み合わせでもあります。
 いろいろなものに出会って、見て、読んで、経験した中からコラージュのように自分の内で咀嚼して自分の世界の作品ができるもののように思います。そこで自主制作したオブジェとしての絵本「小宇宙」。これは自分では満足しても、まわりの人には理解しがたい独りよがりの作品のようでした。それでも、ひとりでも理解して観てもらえる人がいてくれたらと思いました。
 そこで出会ったのが 瀧口修造という人でした。ぼくの進むべき道はこの人との出会いで決定したのでした。本は読むだけではなく、絵のように見るものでもあったのでした。
それよりなにより 人との出会いを作ってくれるものなのでした。

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